メディコウ・リーガル #3
共同・連帯責任の原則 〜「一番大きな財布を持っているのは誰?」
「大きな財布」論 ("Deep Pocket" theory) は、共同・連帯責任を問う時によく使われる。裁判(陪審員)が二つ以上の個人または団体に責任があると判決を下した場合、彼ら(陪審員)はその責任の大きさを配分する。例えば、ある患者が受けた損害の25%が不良医療器具のせいで、75%がその器具を使って手術を行った外科医のせいだとしよう。この場合、医療器具の製造会社と外科医の両方が責任に問われるが、もし外科医が医療事故保険に加入しておらず資産もない場合、医療器具のメーカーが損害賠償金の全額を負担しなくてはならない。外科医の賠償金が彼の保険最高制限額を越える場合も、その超過分(巨額である場合が多い)はメーカーの責任となる。他の被告が賠償金の支払い能力を持っていなければ、責任はわずかに1%と判決が下りても100%の賠償金を払う羽目になる。つまり、責任の大小に関わらず、払える者(=大きな財布を持った者)が払わなければならない仕組みになっているのである。
したがって、大きな支払い能力があると判断されると、医療ミス訴訟の格好のターゲットになり得る。リスク・マネージメントの観点から言えば、医者は適切な医療事故保険に加入している他のドクターとリスクを分散することが必要になってくる。
前にも述べたように、過失があったと判断されるためには、一般的とされるよりも低いレベルの医療が患者に与えられたことを証明しなくてはならない。では、その「一般的なレベル」の医療を誰が決め、誰が定義するのか? 誰が見てもハッキリ分かる「一般的なレベル」もあれば、専門家の助言が必要なケースもある。医学のような、曖昧な部分を扱う分野では特にそうだ。裁判では、原告・被告の両サイドから、それぞれの主張を支持する専門家が証人として登場する。問題となっている分野で高名な二人のドクターが、全く逆の意見を述べることも珍しくない。陪審員はどちらの専門家の意見を採るか、決めなくてはならない。素人の陪審員にとっては(特に非常に専門的な分野では)どの専門家の意見もそれらしく聞こえる。そこで、最終的には証人としての「信頼度」にかかってくる。服装、話し方、歩き方、振る舞い。一般人でも理解できる言葉を使いながら、物知りぶることなく、分かり易く、自信を持って説明できる証人。そういう専門家が、陪審員の信頼を勝ち取るのである。
今や、無報酬で仕事をする人間はほとんどいない。専門家が裁判で証言する場合も同様で、証人として時間報酬を得る。ただし、裁判で証言することを自分の良い宣伝機会だと考え、フィーを受け取らない証人も時々いる(その訴訟が一般に公開されている場合)。建前上は、裁判では原告・被告の両方に平等の機会が与えられているとされるが、医療ミス訴訟においては裁判費用の豊かな被告が原告よりも良い証人を得ることが多い。
裁判で専門家として証言することを仕事にしてしまった医者もいる。彼らの収入は証人としての時間給に大きく左右され、二つの裁判で全く逆の主張を行う輩もいる。「雇われ」証人にとっては、主張そのものの正当性よりも自分の雇い主(それが原告であれ、被告であれ)に有利な証言を述べることの方が大事だからだ。もし、ある証人が別々の裁判で同じ問題に対して逆の証言を行ったことが証明されたら、彼の信頼度と証言の信憑性はゼロになる。